高校時代の恩師がくれたもの

2013年2月24日 日曜日 ・Personal

2月23日の朝日新聞(おそらく、関西だけなのかな?)の中で母校の高校で世界史を教える先生が取り上げられた。昨日の夕方、たまたま出先でフェイスブックをチェックした際にその記事をシェアしていた後輩がおり、リンクからデジタル版の記事に飛んでみると、そこには決して忘れることのない高校時代の恩師を取り上げた記事と、(白髪は増えたが…)その先生を写した1枚のスナップショットが掲載されていた。写真は朝日新聞デジタルから。

 

甲南高校の社会科研究室(?)で地球儀を眺める南里先生。

写真の人物は僕の母校でもある兵庫県芦屋市にある甲南高等学校で、長年にわたって世界史を担当してこられた南里章二(なんり・しょうじ)先生。いつ頃からなのかは不明だが、僕の学生時代にも「世界のナンリ」という名前で知られていた。わが母校の教諭となったのが1972年だから、僕はまだ生まれてすらなかった。これまでに世界中のほぼすべての国を訪れた南里先生は、そこで見たことや聞いたこと、さらには感じたことを、現地で撮影した写真をスライドで紹介しながら、同時にその国の歴史についてレクチャーするというユニークな授業方法で知られていた。今はどうか分からないが、当時は教室に入ると黒板に主要な歴史年号とその当時の出来事が書かれていた。たとえば、フランス革命を取り上げる授業なら、1789年:バスティーユ襲撃、1792年:フランス革命戦争勃発…みたいに重要な出来事が時代順に黒板に書かれていて、それを僕らはまず5分ほどでノートに書き写す。そこからは当時の人々の生活や、革命が「民主主義」にどのような影響を与えたのかというテーマを、パリなどで先生が撮影した写真を見ながら説明してくれた。

 

なかなか日本のニュースですら取り上げられないアフリカや中東、南米といった地域を取り上げる際にも、南里先生が自身の経験を交えて発する「自分のことば」を使った授業は、元来飽き性であるはずの僕を一度も飽きさせることが無かった。あまりに世界史の授業が楽しくなってしまい、南里先生が教えてくれるエピソードやトリビアなども含めて、高校の3年間でたくさんの事をノートに書き留めた。ここでは到底書けないような超ディープな話も含め、「外の世界」をのぞいてみたくなるキッカケを作ってくれたのが南里先生だった。多感な時期に南里先生と出会ってしまい(笑)、「何でも見てやろう、どこにでも行ってやろう」という、現在の自分のアイデンティティがそこで作られ始めた。

 

決して大げさな話ではなく、南里先生と出会っていなければ、アメリカに留学し、そこで働くなんてことはまず無かっただろうし、今どんな生活を送っていたかなと考えてしまうくらいだ。アメリカ時代も何度も葉書で連絡を取り合っていたが、南里先生からお葉書を頂くたびに、「今年はここに行ってきました」という話に書かれている国が毎回異なるのを見てワクワクした。

 

実は東京に出てきてから、僕が記憶しているだけで3回、南里先生にご教示を仰ぐために連絡したことがある。僕が東京のラジオ局J-WAVEで担当していた番組にアフリカ地域出身のゲストを迎える機会があったのだが(そのうちの1つは直前になってキャンセル)、ベナン共和国出身のゾマホンさんが出演する前とコンゴ民主共和国出身のスタッフ・ベンダ・ビリリという世界的に有名なバンドの出演前には、それぞれ関西に戻った際に甲南高校を訪れ、夕方に世界史の教室の中で南里先生が実際に撮影した写真などをスライドで見せていただきながら、それぞれの国の特徴などを細かくレクチャーしていただいた。先生によるレクチャーは完璧で、ベンダ・ビリリのメンバーとフランス語通訳を挟んだ会話の中で、「本当にコンゴに来たことが無いのか?」と何度も聞かれたほどだ。

 

また、ギリギリになってキャンセルをくらってしまったが、エジプト大使館でインタビューする予定だったブトロス・ガリ氏(当時はムバラク政権の財務大臣)のバックグラウンドを頭の中に入れておく際にも、南里先生からエジプトの政治システムやコプト教徒についてのお話を聞かせていただいた記憶がある。

 

話を朝日新聞の記事に戻す。南里先生について書かれた記事を読みながら、僕は誇らしさと寂しさの両方を感じずにはいられなかった。現在65歳の先生は3月1日に「最後の授業」を行う。朝日新聞によると、この日の授業は午前中に3回予定されていて、一般にも公開される予定だ。最後の授業に参加することはできないが、参加を考えている友人にビデオ撮影できないか聞いてみようと思う。

 

「機会を見つけて、日本の外に出てみなさい。そこで様々なバックグラウンドを持った人達に会い、その人たちと語り合い、多様な考え方があることを感じてください。外に出ることで、日本の常識が世界の非常識となっている部分も分かるだろうし、逆に今まで気づかなかった日本の良さも見えてくるでしょう」

 

高校の卒業式の後で南里先生にご挨拶に行った際、こんな内容の言葉を贈っていただいた。先生の言葉を忘れずに、多様性を失わない人間でありたいと思う。先生、長い間お疲れ様でした。近いうちにバーボンでもチビチビやりながら、またワクワクするような話を聞かせてくださいね。

 

*4月から西宮で南里先生の講座が定期的に開催されるようです。ご興味のある方は、ぜひ!